これから、単発的に誰かに質問されたり、自分で必要性に気がついた用語を取り上げてみようかと思いました。そこでその最初に今回は「神秘」と言う言葉を取り上げてみようと思います。

神秘と言う言葉をどう理解するかの大切さを魔女たちはよく語りますが、同時に神秘という言葉の説明の難しさを語ることが多く、きちんとした説明をしているものが日本語で書かれているものには今のところないような気がします。

神秘と言う言葉を考える上でまづ「神秘主義」と言う言葉について、を切り口にしていこうと思います。

神秘主義というのは、非合理的、つまり理屈で説明ができない形で無条件に神性(神、女神)を認めて、そうした神性に直接的に関わる体験をすることに宗教のもっとも大切なものがある、とする立場です。

簡単に言えば、神性を理屈抜きで実感して、その神性と直接関わる体験をもっとも大切な宗教の本質として、それを強く求めたり、そのための宗教儀式などの実践をする、などということをもっとも大切なこととする立場です。

魔女の宗教は、ご存知の通り神性との直接的なかかわりを大切にしますし、魔女の儀式はそれを求めるものですから、間違いなく魔女の宗教は神秘主義の宗教だと言うことが言えます。

さて、神秘主義という名詞は19世紀にはじめて作られました。それまでは形容詞形のmystic/myitiqueしかなく、これは、

mustikos(古代ギリシア語)
→mysticus(ラテン語)
→mystic/myitique(形容詞)
→mystisism/Mystik(神秘主義【名詞】)

という流れでできました。
(Bouyer,1981;Heidrich,1984)

さて、ヨーロッパ諸国のほとんどがキリスト教国であったことから当然にこうした言葉はキリスト教神学と無縁に生まれたわけではなく、14、15世紀にスコラ神学(スコラは後にスクールの語源になった言葉なので、ここからも学問的に神を学ぶという発想が根本にあることは想像できる事だと思います)に対抗して「神との直接的な体験に重きを置くことを中心とする神学」として成立していったという経緯があります。

事実、宗教改革をしたルターが重視したのは建物や権威としての教会ではなく「霊的な教会」、つまり自分の心の中に神との直接的なつながりがあれば法王を頂点とする組織も、立派な教会も要らない、という考え方を「神秘神学」の中に見たからでした。

もちろん、伝統的な魔女の宗教や、いわゆるペイガニズムは立派な建物や上下関係のしっかりとした組織などはそもそも必要としていなかったので「最初から神秘主義だった」といえます。キリスト教にとってこうした考え方がなじみがなかったので「神秘主義」を表す言葉がなかっただけ、と言えばそれまでなのですが、逆に言えばそういう言葉をわざわざ作る必要を感じないほど魔女や異教徒には「神秘主義が当たり前」だったのです。こうした事情から神秘主義という名詞が19世紀、という意外と新しい言葉であった理由です。

さて、当然のことを確認しますが、「神秘主義」という言葉は「神秘(に重点を置く)主義(の思想)」です。

この「神秘という言葉」は形容詞形では古代ギリシア語のmustikosに遡るということを書きましたように、神秘と言う概念自体はかなり昔からあったと言うことがわかります。そして古代ギリシア語の意味を調べていくと、ここで表す神秘とは「神や女神と直接的なつながりを持つ~(~には名詞)」という意味がメインの意味となっています。そして先に述べた流れで言うとmystic/myitique(形容詞)まではほとんどその語義は変わっていないのです。

さて、魔女の宗教は古い宗教です。そして、その古くからの伝統をそのまま受け継いでいます。もちろん細かいところでは色々な変化はありますが、本質的な部分に関しては大きな変化はほとんどないと言えるでしょう。特に宗教としての本質にあたる部分は変化していないと言ってよいほどであると思います。そうすると魔女の宗教はプリミティブな宗教であり、そこでいう神秘は「神や女神と直接的なつながりを持つ~(~には名詞)」という意味から「神や女神と直接的なつながりを持つもの」という意味だと導くことができます。

こうして言葉の歴史から考えていくと神秘と言う言葉は

「神と女神などの神性と直接のかかわりを持つこと」

とまとめることができます。もちろんその意味をさらに深めていくことはできると思いますが、それはこの「神秘」と言う言葉を「解釈」しているだけなのです。ですから、言葉を考えるときに「解釈」をメインにしてしまうと諸説出てきてしまい、「神秘という言葉自体」がもともと持っている意味がぶれてしまいますし、当然解釈ですから反対意味になることすらあるのです。言葉は「生まれたときから持っている意味」から拡張した意味を持つことはありますが、その範疇を超えた意味には決してならず、必づ元の意味にさかのぼれる意味しか持ちません。一言で言ってしまえば「言葉はもともとの意味の範疇を超えない」といえます。

それを見失うと特に初学者は混乱して「神秘ってなんなんだぁぁ!!」と言うことになってしまいます。事実こういう悩みを持っている人に今までずいぶんたくさんあってきました。

こうした語に出会った時は、まづ言葉の由来を調べてみることが案外有力な方法です。そうすることで「言葉の由緒」がわかり、そこをもとにりかいすることができるからです。
以前、「魔法について(3)」の最後に書いた

『人が言葉の由緒を忘れても、言葉はその由緒を忘れないのです。そして、魔女はその由緒を大切にすることで魔法を使うのです』

という結びは、こうした思いも込めていたのです。

この神秘と言う言葉、本などを読むと色々な意味で使われていますし、説明もそれそれです。そのくらい豊富な解釈を許す言葉だともいえます。

ある意味「神秘」と言う言葉は「もっとも神秘的な言葉」の一つなのかもしれません。